準備状況

 研究代表者の奥村は1995年以降塚井とともに都市間交通の需要予測,都市群発展との関連性を研究し,ヒューリスティック手法に基づくネットワーク計画に取り組む一方,国内の都市間交通研究者を組織化して土木計画学研究発表会スペシャルセッションを主催した.東北大学への転任を挟み,国土交通省の全国幹線旅客純流動調査委員会委員兼幹事として政策ニーズを収集しつつ,2009年から科研費(基盤(B))[2]を取得し,塚井、金子らと研究を進めた. 

 東北大学では,人口減少,環境制約の激化,施設老朽化の懸念を持ち,最適施設配置・維持・廃棄の研究を行う中で,最適性の保証や双対変数等からの情報取得という数理計画法のメリットが明らかになり,複数機関の統合経路生成を内生化する線形計画法の適用e,6)を世界で初めて実用化し問い(A)への解決法を示した.塚井、金子と土木計画学研究委員会に都市間旅客交通研究小委員会を設置し,2013年からの科研費(基盤(B))[1]も活用し博士課程学生の山口に交通需要分析の経験5, 21)を積ませて研究者育成を図った.国内外で成果を発表し4),交通ネットワークの社会・経済的性能を研究する神谷、大井、花岡やアジア諸国の研究者との意見交換を行ってきた.同時に,数理計画法を専門とする東北大学の林との連携により二次錐計画(SOCP)22,23)などの数理計画手法の理解が進み,需要内生化3)および規模の経済性の表現1,2)を可能として問い(B)の解決法に目処がついた.

 2020年からの世界的なCIVID-19の拡大による交通需要の減退は,交通事業者に大きな打撃を与え,幹線交通は危機に瀕している.Go To Travel キャンペーンは感染拡大リスクを増加させずに経済価値を効果的に回復させる可能性を持った施策だが,裏づけとなる科学的検討が不十分なまま中止された.世界は,科学的根拠を持つ対応策を求めており,我々の研究蓄積を基礎として問い(C),(D)への答えを用意すれば対応策の提案が可能であると考え,インパクトへの対応を包含するレジリエントなネットワークの計画・運営のための科学的な裏付けを提供する本研究を構想した.共同研究等を通じて密接な連携体制を持つ各研究分担者から本研究計画に対する了解を得ており,準備は整っている.

 国際的にも複数交通機関をまたぐ研究は多くないが,高速鉄道で航空端末輸送を行う低炭素化政策の研究が見られるa)b).それらは経路選択肢を事前に用意しヒューリスティクスを用いているc)d).海外研究協力者は航空と高速鉄道の連携方策に関する理論的研究をしてきたがf,12,13),対象ネットワークは簡単なものに留まり,レジリエンス性の議論は進んでいない.

 海外研究協力者にも,電子メールで本研究計画の説明をし,協力意向を確認済みである.